アルバート番外編
「猿山キングダムの6人」




「あれ、なにこれ」

その日も、いつもの仲間と、いつもの場所で、いつものバカ話をしてた。
あの女とやったのやらないの。新しいシェイクを飲んだの飲まないの。

「ぐえっ」

「おう、あごん」

「よォ」

「く、くるし」

「あごん、それ、死んじゃう死んじゃう」

ああ、と後で声がして俺の"絞まった首"は解放された。
何が起きたかは知らないけど、あごんの声が聞こえる直前、
つめたい金属の鎖みたいなもんで俺の首が締め上げられたんだ。

「これなに」

あごんはそう言って、俺の首にまきついた鎖を引っ張った。
俺はネックレスを後から引っ張られていたのか。首が絞まるはずだ。
俺はむせながらも自慢げな顔をつくって答えた。

「いいだろ、クロームハーツ」

ごついクロスのチャームを指でつまみ上げると、持ち上げて見せる。
あごんがオレンジのサングラスをひたいにずらして覗き込む。

「どこで買った?」

ビールの缶に口をつけながらアライが言った。
あごんは重さを確かめるように、クロスをつまみあげて観察している。

「トニーんとこ」

俺が答えると、アライはハハッとのけぞって笑い、言った。
センター街の?
そうだ、と俺は答える。

「じゃあパチモンじゃん」

こいつはデーブ。いや、どっからどうみても日本人なんだけどさ、超デブなんだよ。
だからデーブ。本名がなんだったか忘れたよ。

「うるせーよ」

俺は向かいのソファにすわったデーブのだるっだるの腹を蹴る真似をした。
本物のクロームハーツなんか家出中学生が買えるかっつの。
センター街の露天商、自称トルコ人のトニーからパチモン(¥2980)買うので精一杯っしょ。

「やっぱ違うわけ。ホンモノと」

あごんはサングラスを戻して、両手をジーパンのポケットに突っ込み、
まじまじと俺のバッタモンのクロームハーツを眺めた。
さあ、どうだろ俺も正直あんまり本物みたことないし。

「ぜーんぜん違う」

うっわ、でた。エージだ。これだからボンボンはやだよ。
家では「おかあさま」なんつって、塾行く振りしてココにきてる嫌みなやつ。
エージは本物がどのくらい高い技術で作られ、
どんなロックスターが愛用しているのかを、俺のパチモンを悪いお手本にして、
低血圧な調子でだらだら話はじめた。

「ふーん」

聞いてんだか聞いてないんだか。
あごんもどちらかと言うとエージに近いのかもしんない。なんか世間知らずなんだよな。
その世間知らずの王様がエージとはまた違った気だるい声で言う。

「リュージー」

リュージってのは俺ね。クールな本名だろ。
親バンザイ、半年会ってねーけど。

「いっこ持ってこいよ」

なにを?
ああ、あごん、コレが気に入ったわけね。
いいぜ、トニーんとこなら今すぐ行って来てやるよ。
何がいい?ネックレスか、ブレスとリングもあったぜ。

「パチモンじゃねーのがいい」

パチもんじゃなけりゃブレスでもリングでもなんでもいいよと言って、
あごんはどっかへ行っちまった。

「どーすんの」

ニヤニヤしながらエージが言う。
どうもこうもねえよ、大体お前が余計な事言いやがるから…。
しかもなんで(金がなくてパチモンつけてる)俺が?
買えるわけねーじゃん!軽く10万はするっつの。

「あごん、怒るとコワイぜ〜」

うるっせーよ、デブ。んな事死ぬほど知ってるよ。
"あごん"なんて気安く呼んでるけど、それはあごんがそう呼べと言ったからそう呼んでるだけで、
本当はあごんは俺らにとって"ダチ"じゃあない。"ボス"なんだ。

「まーた前歯なくなっちゃうな」

クソ嬉しそうにアライが俺の肩をポン、と叩いた。
俺は最近、前歯を一本なくした。
乱闘の時、あごんの近くにいたんだ、そしたらあごんのヒジが俺の前歯に当たってしまった。
別にわざとじゃない。どちらかと言えば暴れてるあごんにうっかり近づいてしまった俺が悪い。

「折られたわけじゃねーよ」

あごんはかなりの気分屋だし、善悪の境界がだれよりも曖昧だから、
気に触れば仲間だって、じぶんの女だって平気で殴る。だけど俺のはただの事故だ。
ボスとの関係は悪くない。

「イヨー、今日もシケてんねー」

「あれ、リュージ歯ァどうした?」

キングダムのDJやってるキムと、ハッパが大好きなてっちゃんだ。
つーかてっちゃん、昨日会ったときも同じ事言ってたし。
めんどくさいから俺も昨日と同じ返事をした。

「俺の前歯はバカには見えねーの」

てっちゃんは、見えねーはずだと笑った。このセリフも昨日聞いた気がする。

「つーかどーすんのークロームハーツ」

うるっせえなあ、ずっと考えてたっつの、本当に人の不幸が大好きだなエージ。
ナニナニ事件?事件?とキムがはしゃぐ。
ざっと(本当にざっと)アライが事の顛末を説明した。

「ウリでもしなきゃ買えねーな!」

あらすじを聞いたキムの一言でみんなどっと笑った。冗談、マジきっつい。
前歯かけてちゃ買い手がつかねーよとデーブが言った。
お前が言うな、いっそお前を売んぞ、デブ。肉屋にな。

「今日、何日だっけ」

いつまでもゲラゲラ笑ってる連中に、俺は言った。
ちょうどケータイをいじくってたてっちゃんが答える。

「にじゅさん」

ちなみに今は12月。
もう23日…明日か…。

「なに、なんかあんの」

アライが言う。

「マジな話さ、明日までにクロームハーツどうにかしたいっつったら、どうにかなっかな」

俺がまじめな顔を作って言うと、連中、シーンとしやがった。
まあ、実際は死ぬほどデカイ音で音楽が鳴ってんだけどね。

「なんで明日?」

一部始終を知ってるエージが不思議そうに言った。
そう、あごんのあの雰囲気なら、別にすぐじゃなくたってかまわないだろう。
下手すりゃもう忘れてるかもしれない。

「去年、お前いたっけクリスマス」

俺がそう言うと、こう見えてカンのいいデーブが、ああ、と思い出したようにうなずく。
エージは、たしか去年のクリスマスは駒沢の豪邸で家族でパーティーだったと言った。

「あごん、クリスマス知らなかったんだよな」

デーブが言う。
そう、あごんは去年の秋、強烈なデビューを飾った。
クリスマスの頃はすでにあごんは王様だったが、パーティのあごんはまるで小学生みたいだった。
クリスマスという存在自体は知っていたが、 "クリスマスをやる"のは初めてだと言っていた。


「ああ、家、寺らしいね」

しかも相当厳しかったらしい。
去年、パーティといっても、
ケーキとシャンパンがあった(あと音楽がクリスマスソングだった)くらいで、
特に何をやったわけでもない。
怒ったり、不機嫌だったり、気だるそうだっだり、
それ以外のあごんの顔を、俺はあのクリスマス以来見ていない気がする。

「ボスに、クリスマスプレゼントか」

そう言ったエージの顔は、びっくりするぐらい男前だった。ちょっとムカつく。
いいじゃん、やろうぜとキムが笑った。
たまにはいいじゃんか、とてっちゃんも喜んだ。

「ま、問題は」

アライはちっとも笑ってなかったが、次に続く言葉はたぶん、
計画をマジで進める第一歩だろう。

「どうすっか、だな」

俺ら金ねえしな、とデーブがぼやく。
しかもこんな所にだらだら集まってるだけあって、頭もあんまり(いやものすごく)良くない。

「ねーなら」

そう言ってキムがにやりと笑った。
アライにはキムの言いたい事が分かったらしい。
こともなげに言葉をつなげた。

「パクッか」

言うと思った、とデーブが失笑。








「あっれ、デーブまだ?」

「てっちゃんもまだ来てねーよ」

翌日、クリスマスイヴ当日、俺達は計画を実行に移すべく宮下公園に集合してた。
その2名をのぞいては。
バイク3台に二人ずつ乗って、前は安全運転、後ろはカッパライ。
まあ、クリスマスイブだ、かたっぱしからやりゃあ、
いっこぐらいはクロームハーツにあたんだろ、っつー割とざっくりプラン。
ざっくりっつても、俺らの頭じゃここまで来るのに普通に苦労したんだけどさ。

「んー?あれデーブか?」

キムが目を細めて、宮下公園の暗い入り口を見つめた。

「誰か笑ってねー?あ、あれてっちゃんじゃん」

アライが言った。
デブとてっちゃんらしき二人組は、
今にも転がらんばかりに笑い転げながら、ヨロヨロとこっちへ向かってくる。
おせーぞ、とバイクにまたがったエージが叫んだ。

「つか…」

何かがおかしい、と思った瞬間には俺らはおもいっきり吹き出してた。
デーブとてっちゃん、二人とも上下まっかなサンタクロースの格好だった。
俺達は指をさしてばか笑いした。

「デーブ、マジサンタじゃん!」

キムがたまらないというように地団駄を踏んで喜んだ。
だろ、だろ、と笑いながらてっちゃんが言った。
デーブのよく出た腹は、既製のサンタ服にはおさまりきらず、すそから腹がはみ出してる。
ティーンエイジャーにあるまじき貫禄、ブラボー。

「うっせーよ!オメーらも着ろ!」

さすがにデーブはむっとした顔で、
持ってたディスクユニオンのぱんぱんに膨らんだビニール袋を投げつけてきた。
中からでてきたのは、レコードじゃなくて二人の着てるサンタ服×4。
せっかくだからハンズでパクッてきたとてっちゃんが言った。
俺ら、金はねえけど、
あんがい暮らしぶりは豊かだろ?





「オー、なんかかっけー」

バイクにまたがったサンタクロース6名。顔にはサングラス、オア、ゴーグル。
自分らで言うのもなんだけど、現代の(逆)サンタクロースてな感じでなかなか。
ちなみに俺は、アライトナカイ運転する、ソリならぬバイクに乗った(逆)サンタクロースだ。

「8時半ぐらいにはキングダムな」

エージはそう言うと、キムを乗せてバイクを出した。
諸君、健闘を祈る、と後部座席のキムサンタが真顔で敬礼してる。
何がなんだかわかんねーけど、俺らは妙に興奮してて、
ぎゃーぎゃー騒ぎながら各方面へ散っていった。

我がアライ&リュージコンビは順調に(逆)サンタを続けてた。
ただいちいち中身を確認する余裕はなくて、とにかく数をこなしまくってた。
いっこぐらいあんだろ、なんて余裕こいてたけど、
最近渋谷もこぎれいになっちゃって、グッチやティファニーならともかく、
クロームハーツはちょっと怪しい。

「リュージ!いけよ!」

井の頭通りを飛ばしながらアライが叫んだ。HMV前には待ち合わせや、
どこかに向かう人間が車道まで溢れてる。
宮益坂や道玄坂みたく車通りが多くないから、車道を歩く人間が多い。
ひったくるにはもってこい。
ただ目の前に交番があるから、結構スリリング。

「オーケイ!」

アライが歩道すれすれを走るようにスピードを上げた。
俺は右手をバイクに固定すると、アライの横顔が見えるくらい左側に乗り出した。
左手をはばたくように伸ばす。
ナイスポジション!

ひったくりっていうのは実に静かだ。
ひったくられた瞬間にキャー!なんて叫ぶ奴はまずいない。
いまの女にしたって、ヨタヨタメールでも打ちながら歩いてたんだろ、
一瞬じゃ何があったか解らない。
俺達は悠々とそのまま交番の側を通り抜け、ハンズ方面へつっぱしった。
八時半まであと15分、もう一稼ぎしに行くか。








「やっべえ!あった!」

くそ寒い宮下公園で、戦利品をチェックしながら思わず俺は叫んでた。
最後の方に井の頭通りでかっぱらった紙袋の中身は、正真正銘クロームハーツ(エージ談)。
どっしりと重たいダブルビーリング・ブレスレッド(エージ談)。
いかにも!って感じのクロスとかがついてないとこが逆にクール。

「きたーっ!」

キムが両手を上げた。
俺も両手を上げて、キムと手を打ち合った。
次いで同じポーズをとった、デーブ、エージ、てっちゃん、アライと順番に手を打ち合う。

「じゃあ、行こうぜ!」

てっちゃんは用意した東京都指定ゴミ袋(45L)に、
その他の戦利品を超適当にぶち込んだ。
クロームハーツさえあれば、後は見分けなんかつかなくたっていいからだ。

5分後、ゴミ袋を背負った俺達6人の(逆)サンタクロースは、
キングダムのドアの前に立っていた。
今度は(本当の)サンタクロースになる為に。


「なんつって入る?」

「メリークリスマスでいんじゃね?」

「うわー俺、噛みそう…」

「あごん、来てるといいな」

「やべ、緊張してきた!」

「いいか、行くぞ」


エージがドアに手をかけると、
ダンスリミックスのマライアキャリーが爆発する。
俺達は聞き慣れた爆音の中へとびこんだ。


「オーケー、せーの、」





「メリークリスマース!!」





end.



出演

上村 龍次(リュージ)
荒井 透(アライ)
大野 英司(エージ)
木村 敬一郎(キム)
管 哲太(てっちゃん)
磯辺 隼人(デーブ)


特別出演

金剛阿含(あごん)



「猿山キングダム」を書いたときに頭にあったお話です。

キングダムでの阿含はどんな「王様」なんだろう、と。
たぶん、テキパキと部下をまとめ上げるようなボスではないと思いました。
何かが欲しい、それだけ言えば、部下は必死になって考えて、自力で解決して、
それから阿含の前に差し出す、そんな形態なんじゃないかとおもったら、
この話ができていました。

そして阿含は責任をともなう特別な役職「ボス」とか「王様」とか、
そういう呼ばれ方は嫌がる気がしました。
彼ら6人は「あごん」がどんな漢字なのか、知らないし必要ないんだと思います。



少しでも楽しんでいただければ幸いです!


北川