常夏






寒みィ。そんでもって眠みィ。

明日っから11月だ。今は午前7時をちょっとまわったとこ。
さっきやっと空が明るくなってきて、どうやら今日は晴れそうだ。
もう冬が近い。近いっつーか冬だよな。実際。
でももう11月だ。このクソ早い朝練に参加しはじめて何ヶ月になる?
いい加減慣れた。
ヨユーで起きれるとは言わねぇけど、ガッコ着いて、極寒のロッカールームで着替えて、
グラウンドに出る頃には、アタマも身体もシャッキリ目覚めるようになった。

それがなんで今日はこんなに眠みーかっつうと。
昨日…いや今日というか飲んでたんだよ。中学ン時のダチと。そりゃもうついさっきまで。
とりあえず家帰って、フロ入って着替えて…今ココにいる。
朝日が目にしみて痛てぇ。まだ酒が残ってんだ、下半身に力が入らねえ。すでにバテバテってやつだ。
なのにこのチビデブ、さっきから俺の支えるダミーへのタックルがハンパじゃねえ。
こっちの息が上がってくる。
オレの身体はまだあったまってなくて、手足がかじかんでるし、
薄着で中途半端に汗をかいてるから、止ったらガタガタ震えそうだ。
それでもオレの吐き出す息は真っ白で、なんつーか濃厚だ。そんだけ身体の中はあったけーって事で、
ああ、寒みーんだな。とまた納得する。

昨日、いや正確には今日になってたかもしんねーが、混乱するから昨日と呼ぶことにする。
昨日は二人で飲んでた。結構な確率でつるんでる戸叶も黒木もいなかった。
たまたま街で中学ン時のダチに会って、じゃあ飲んでこうぜって事になった。

安いチェーンの居酒屋で、サワーをすすって奴は言った。
「なあ十文字、オレ冬ってキライだぜ」

ああ、寒みーしな。
何が言いたかったのか良くわかんなかったから、オレは適当に相づちを打った。
「ちげーよバカ。いや、そーかもしんねーけどよ」
奴の話では、
オレら俗に言う、不良って奴は何処にでも座り込める。コンビニの前でも公園でも。
そりゃあもう、我が家のように。夏はガッコーサボって海へ行くし、他のグループと会えば、買ってでもケンカする。
でも冬になるとさすがに閉じこもりたくなる。やっぱ寒いしな。
いつものファミレス、いつもの誰かん家。いつものメンバー。
ヒマで、情けなくって嫌んなる。

ああ、確かにそうかもな。
オレは去年の冬の寒さと、あのけだるさをありありと思い出し、同意した。

「それによ」
奴の姉貴が結婚するらしい。
2コ上だから18だが、だからというかなんというか、できちゃったってやつだ。

結婚だぜ?母親だぜ?あの姉貴が。
マジうぜーよ。姉ちゃんいきなり大人になりやがんだ。
なまじヒマだから考えちまうんだよ、十文字。
「オレらも大人になんだぜ?」

そーだな。それはマジでうぜーな。
その後オレらは、大人になるという悲劇について語り合い、朝になった。
ふとオレは近くで、やっぱりオレと同じ色の湯気を吐き出して、
必死こいてダミーにぶつかってる戸叶、黒木を見た。
こいつらもいつか、昨日話したような、例えば、そうだな。
地味で安っぽい背広なんか着て、生活の為に頭下げたり、その辺の女と結婚したり、ガキできたり、
ハゲたり、節約したり、ゴミ出したり…すんだよな。
想像すると全く胸がつまるぜ。見てらんねー。

と、視界にさっきやっと、光りはじめたばっかの太陽が入ってきた。
入ってきた、と思ったらなくなった。


ドッ。

強制的に黒いもやみたいなモンが、どんどん増えていく。
鼻にツンとくるような、何だ?衝撃か?が走る。
オレが思うに、あのバカ力のチビデブが、オレの支えるダミーにタックルしてきて、
よそ見してたのと、身体がフラフラなのでオレはぶっとばされたんだ。
で、後頭部を打った。


あー失神すんだな…カッコ悪りィ。



セミの声が聞こえる。視界一面、青一色だ。
ああ、あの空だ。太陽戦で青天しまくった時の。夢みてんだ俺は。
空以外なんにも見えねぇ。首筋にあたるグラウンドの砂が、ざらざらして気持ちわりー。
頬がなんか熱ちー。いや、痛てぇんだ。
あれ?あん時オレ頬なんか打ったか?
痛てっ!まただ。何なんだよ一体。

気づいたら、セミの声がやんでた。
平たい青一色が、立体的な何かの形になっていく。
さっきまでの青空は、オレのまわりにぐるりと一周した、そうだな、複数の人間の頭に見える。

あーなんか見た事ある。
真っ先に認識したのは戸叶だった。その横に…
痛てっ!オレの顔をひっぱたいていやがったのはテメーか黒木。もう目開いてんだろうが。
だんだん目が慣れてきた。一体何人集まってんだ?
1、2、3、4…

はは。なんだこりゃ、アメフト部全員いるんじゃねえか?
おもしれーくらい全員、オレの顔をのぞきこんでやがる。
あのヒル魔でさえ、ちょっと遠くからミケンにしわよせて、こっちを見てる。

オレはちょっと笑ったらしい。途端、
「オイ!大丈夫かよ十文字!」
「大丈夫?十文字君!」
「どこか痛まない?」
「あ、あんまり揺すらない方がいいですよ」
「で、でし!!」
「おいサル、氷だ」

あー。うるせぇ。うるせぇ。
さっきのアブラゼミそっくりだ。
あつっくるしいぜ。

冬は一体どこ行きやがったんだよ?









end.