方向オンチ
「モン太・・・あのスポーツショップ川沿いじゃなかったっけ・・・」
人工的な路地。
両脇には工場や倉庫が並んでいる。なのに人の気配が全く無い。どれも廃屋のように冷たい。
それなのに蒸した空気はたっぷりと湿気を含み、少年たちの身体に汗となって現れた。
「もうすぐ、もうすぐだって!ほら心なしか川のせせらぎが・・・・」
雷門太郎が耳に手をあてて、おどけて言った。
「しねーよ」
十文字一輝が斬り捨てた。
「近道・・・失敗だったね・・・」
小早川瀬那が、完全に道に迷った事を認めた。
アメリカ戦も目前。
過度の練習ですり減ったスパイク。壊れかけのダミー。
幸い泥門デビルバッツは部費には困らない。
「買ってこい。ダッシュで」
部長が言った。
もう7月になるというのに、まだ梅雨明けしていない。出発する一向を見下ろす雲行きは怪しかった。
「大丈夫よ、すぐに知ってる道に出るわよ」
同行した姉崎まもりが、自転車を漕ぎつつ励ます。
「悪りィ、俺のせいだ」
雷門太郎は急にしゅんとしてつぶやいた。
こないだセナと買いだしに来てたから、自信持ってこの横道行ったら近道だって、言ったけど。
実際ココはあのスポーツショップに近いとは思えねぇ。恐ろしく離れていってる気がする。
いつも俺ってこうだ。
こうだ!って決めた道がだいたい間違ってんだ。本庄さんに憧れて、俺には野球しかねえ!
そうやってツッパしって来たのに、実際ただの役立たずだった。
今はこうやってアメフトって居場所を見つけたけど。
「気にしないでよ、着いてきちゃった僕も悪いんだからさ」
それまで黙ってやりとりを聞いていた、未だベンチの2年生。雪光学は言った。
最初の角を曲がるとき、本当にこっちでいいのかなって本当は思ってたんだ。
あの時ちゃんと言えば良かったんだ。そうしたらモン太くんもこんなに責任感じる事なかったのに。
ダメな所だ、僕の。今だってまだ母さんに本当の事、言えないでいる。
衝突するのが怖いから、いつだって本当の気持ちを隠してる。
「しみったれんな、サッサと走れ」
不良のラインマン、十文字が急かした。
間違ってねえよ、川のせせらぎは聴こえねぇけど。その内見覚えのある場所に着くはずだ。
ちっとばかしモタついたからって遅くはねえ、そのぶん帰りはブッとばして走りゃいいんだ。
必ず行き着くはずなんだ。家も不良も関係ねぇ場所に。
行ってやんだ、あのクソ親父が想像もできねぇ場所に。
ほら見ろ間違ってねぇ、そう言ってやんだよ。
「ここまで来たんだから、行ってみるしかないよ」
ヒーローの仮面を被った、主務。小早川瀬那が言った。
ここまで来ちゃったんだ。後戻りは出来ない。相変わらずあのスポーツショップの面影は見えないけど。
ここが何処なのかさっぱり見当つかないけど。それはここにいる皆も同じだし。
不安がってても仕方ないよね。
いまさら、後戻りは出来ない。それに、信じてるんだ。今は。
仲間を、自分を、走ることを。たどり着く事を。
「あ!見て!川!この道、私知ってる!!」
マネージャーが明るい声を上げた。
「ほら!だから言ったろ?近道だって!!」
レシーバーは飛び上がって走り出した。
「遠回りだったろうがよ」
不良のラインマンは苦笑した。
「良かった・・・」
ベンチの2年は安堵のため息を漏らした。
「引き返さなくて正解だったね!」
俊足のヒーローはレシーバーを追って駆け出した。
近道しようとして、迷ってしまう。
向かいたいのに離れてしまう。
不安になって止ってしまう。
それでも進むしかなくって。
余計遠回りをして。
いつだって僕らは、方向オンチだ。
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end.