未成年
「打ち上げパーティ…。」
あまりに意外なこれからの予定に、セナはまもりの言葉を繰り返した。
しかしなんでまた…2回戦の王城相手に盛大に負けたのに、しかも昨日の出来事だ。
「糞デブがどうしてもやりてーっつーんだから、渋々だよ!シ・ブ・シ・ブ!!」
ヒル魔が、さも忌々しそうにレジからコンビニ袋(といっても最大の袋6つ)を受け取り、
ハァハァ三兄弟に当然のように押し付け、出口へと向かう。
「待ってよ、でもこんなに買って何処で?部室に戻るの?」
まもりがヒル魔の背中に話しかける。
「打ち上げガッコーでやるバカが何処にいんだよ。公園だ、公園。」
「公園!?」
セナ、まもり、栗田の息ピッタリ、見事なハモリだった。
「だ、だって雨、降ってるじゃない…?」
部室で打ち上げやるのもバカかもしれないけど、公園ていうのも…。
というツッコミはセナは口には出さなかった。
いかにも、晴れていたらともかく、この雨の中どうやって公園で、
今買い込んだ大量の菓子や飲み物を広げるというのか?
「安心しろ、あと47秒で止む。」
??
いくらヒル魔とはいえ、雨を降らせたり止ませたり、なんてできるはずない。
一同に困惑の色が浮かぶ。
「18時32分4秒に止む。あと…39秒。」
チラリと腕時計を見たヒル魔が、飄々と言う。
まさか…天気予報…?それにしてもなんて細かい…。
「な、なんかさっきより小降りになった気がするね…。」
栗田がコンビニのガラスを通して、空を見上げる。
「4…3…2…1。」
ヒル魔のカウントダウンに、みんな息をのんだ。
雨が、止んだのだ。
「移動!」
驚いたのもつかの間、ヒル魔はすでにコンビニの外へ出、
完全に雨の上がった景色の中を、スタスタ歩いて行く。
着いたのは泥門前駅にほど近く、高架線の下にある公園だった。
こんな公園あったんだ。
泥門に通って2年目になる、まもりと栗田が感心していた。
それほどこの公園は死角にあり、小さいし、なんというか、さびれている。
シーソーとすべり台、ちいさな砂場があるだけだ。
忘れ去られたみたいなその公園は、夕暮れに沈み込み、ちょっと気味が悪い。
コレに触ったら、呪われそう…。そばにあったすべり台を、恐る恐る眺めていたセナに、
「セナ君!乾杯しようよ!」
朗らかな栗田の声がかかる。
見ると、切れかかっているのか、ちかちかと点滅する街灯の下のベンチに、
すでに足を組んでくつろいでいるヒル魔、
ヒル魔の向かい、シーソーに腰掛けた栗田。
その足もとのビニール袋にゴソゴソ手を入れて、乾杯の準備をしているらしいまもり。
さらにその足もとに、荷物持ちでゼェゼェ息を切らして座り込む三兄弟。
公園に移動する道中、三兄弟がブツブツ言っているのを聞いたところに寄ると、
どうやら彼らはたまたまSONSONに居合わせただけらしい。
この人達もヒル魔さんは怖いんだな…と妙に納得したセナだった。
「ここ、座りなよ。」
栗田がポンポンと叩いて示したのは、栗田の座っている隣で、すなわちシーソーなのだが、
栗田の重みで地面にめりこまんばかりに下がっている。
シーソーの端に栗田は座っているので、セナはその隣、シーソーで言えば支点寄りに座った。
大分斜めっているし座りにくいが、地べたに座り込んでいる三兄弟よりかは、
いくぶんましかと腰を落ち着けた。
「ちょっと!コレ!!ビールじゃない!!」
まもりが手にした350ミリリットルのアルミ缶。
それは間違いなくコーラではなかった。発泡酒でもなかった。
「オー。良く知ってんじゃねーか!」
ヒル魔がパチパチと手を叩く。
そんなヒル魔をキッとにらんで、まもりが応える。
「アルコールはダメよ!特に未成年は成長の障害に…」
「わーった、わーった。」
意外にもヒル魔は怒らず、手のひらをまもりに向け、
「そこの糞チビには一口だけだ。あとの奴等は育ち過ぎてんだから、構わねえだろ?」
「…」
「一口くらいのアルコール、メシにだって入ってんだろ?それとも何か?チビだからってコイツだけコーラか?」
ヒル魔は親指でセナを指し、まもりは複雑な表情でちら、とセナを見た。
「…本当にひとくちよ。」
「しつこいぜ…ってテメーら何飲んでんだよ!!」
ヒル魔は鞄から、すばやくM92Fガスガンを引き抜き、3連発間髪なく発砲した。
三兄弟、まだ飲んではいなかった。缶に口をつけてはいたが。
しかし発砲された弾は、すでに三者三様に命中していたので、どうでもいい事だが…。
ヒル魔がすっくと立ち上がり、おろおろと見守っていたセナに、プラスチックの使い捨てコップを渡し、
プシュとプルトップを上げ、ビールを注いだ。
ビールの量はコップの底から、3センチあまり。
「こんなら文句ねえだろ。」
まもり、栗田もセナと同じくらいコップにつぎ、ヒル魔は缶のまま。
ヒル魔は「オラ音頭とれ、言い出しっぺ。」
長い足をのばして、ボヨンと栗田の腹を蹴る。
「えっ僕?そもそも言い出したのはヒ…
…や、じゃあ音頭とらせてもらいます。」
…なんだ?今の間。
「2回戦の王城戦、負けちゃったけど、でも、2タッチダウンしたんだし、次は必ず勝てると思うんだ。
だから明日から練習とかもキツく…」
あきらかにイライラしたヒル魔が、さっきより勢い良く栗田の腹を蹴り、
「長げぇ!!!
出会った敵はとにかく全部ブッ殺す!!以上!!!」
ヒル魔に蹴られ、シーソーから転がり落ちた栗田が、地面に座りこんだままコップを高くかざし、
高架を通る電車の轟音にも負けない大声で、
「カンパーイ!!!」
それにつられ、みんなありったけの声で応えた。
「「「カンパーイ!!!!」」」
さっきヒル魔と口喧嘩をしていたまもりを、チラリとセナは見やったが、まもりは満面の笑みであった。
プラスチックのコップと、アルミ缶のぶつかりあう音は、驚くくらい地味であったが、セナは満足であった。
ひとくち分注がれたビールは、手に持っていたせいで、多少ぬるくなっていた。
その液体を、セナは決心したように一口でごくりと飲んだ。
うまい!!
とはいえなかった。でも何だかこうやって外に集まって、
みんなで乾杯したビールは、特別な飲み物のような気がした。
「さ、みんな好きなもの食べてよ!!沢山買ってあるから!」
栗田が嬉しそうに菓子の袋を、ビニール袋の外へ出す。
するとセナの向かいに座っていた、ヒル魔の顔に急に、あかるい光が当たった。
「さっき発砲音のような、音が聞こえたが…。」
逆光で見えづらかったが、その人物のシルエットはあきらかに、警察官のものであった。
携帯している懐中電灯で、こちらを照らしている。その光の後にもう一人。警官は2人のようだ。
さっきヒル魔が、三兄弟に発砲した音を聞きつけて、巡回にやって来たのだ。
「君たち、それはアルコールだね?…。その制服は泥門…。
ちょっと名前と学年を聞かせて貰おうかな。」
後のもう一人はすでに、無線で何か連絡している。
ガシャン!
ハッとヒル魔を振り返ると、さっきのM92Fなんて拳銃ではなく、
大型のマシンガンのスタンバイが整っていた。
「ま、まって…」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!
まもりの声は連続する発射音にかき消された。
「モタモタしてんじゃねえ!!解散だ!解散!!!」
公園の植え込みを飛び越えて、走り去るヒル魔が怒鳴った。
あわてて鞄をつかみ、全員走り出した。
三兄弟の姿がもう見えなかったのは、さすがというべきだろう。
公園の裏手へ脱出し、飲み屋や、キャバクラなんかがある通りへ抜けた。
後には「待ちなさい!」という警官の、怒りに満ちた声が追いかけてくる。
まだ宵の口だというのに、酔っぱらったサラリーマンや、
厚化粧の客引きの女の人達が、警官に追われる僕らを見てる。
こんな通りにはまだまだ似合わない、制服とジャージのアメフト部。
歓楽街の先に、ヒル魔のマシンガンの音が、まだ聞こえる。
警官に追われて必死に逃げながら、
解散だ!と言われたのに、なぜかみんなマシンガンの音を追いかけて走っている。
この追いかけっこは、あとどのくらい続くのだろう。
未成年の夜はふける。
end.