シーザス アンド ブッダ
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ポク ポク ポク チーン
あ、メールだ。
どうも、神龍寺学院2年、細川一休ッス。
え?今の音は何かって?メールの着信音ッすよ。
いや、誤解しないでくださいよ、俺だって好きでこんな着信音にしてるんじゃないんスから。
勝手にコレに変えられた上に、変更禁止令が出てるんスよ。
誰に、って…言わせないでくださいよ。こんな嫌がらせあの暇人に決まってるじゃないっスか…。
「ウンコちゃん、ブカツー?」
噂をすれば、本人だ。
雲水さんの声も聞こえる。あ、ちなみにココは部室ッス。
廊下の外で阿含さんと雲水さんはなんかモメてるみたい…おっと、ちょっと失礼します、
ケータイと一緒にポケットに入れてた小銭が落ちたっぽいッス。
えーと、どこ行った…ああ、テーブルの下だ、よっこいしょ…
ガラッ
「マジ、しょーがなかったんだって」
「ほう、何があった」
あ、2人が入ってきました。
俺は今テーブルの下にいるんで、2人の足しか見えないんスけど、
なんかケンカしてるっぽい2人は、俺がいる事に気付いてないみたいスね。
でもまあ、今は険悪ムードでケンカしてますけど、
そもそも兄弟で同じ高校で、同じ部活って、相当仲いいっスよね。
俺だったらありえないっすもん。
「急用だよ、緊急事態、俺だって好きで帰らなかったわけじゃねえよ」
あ、俺この真相知ってるッス。
阿含さん、昨日雲水さんとなんか約束してたらしいのに、
スッカリ忘れて女のとこに行ってたんスよ。
俺、その時たまたま用事があって電話しましたから。直で聞いたワケじゃないッすけど、
テレビの音と女の子の笑い声。かんぺき、女の部屋ッスよ。
だから急用なんて大嘘ッス。
「嘘つけ。お前、女の所に行ってたんだろ」
…!
ヤバイッス!バイッスよ雲水さん、それは鬼困るッス!
つーか約束がちがうじゃないスか!
ええ?何焦ってるのかって、そりゃ焦りますよ。
昨日のこと、俺言っちゃったんスよ。雲水さんに。
だってああ見えて、ものスゲーしつっこいんスよ、雲水さん。
阿含さんには絶対に言わない。
そういう約束で教えたんスよ。
だってそうでもしないと俺の立場…いや命もアブナイっスからね。
なのに雲水さん!
「ハ?なに言ってんの」
テーブルの下からじゃ顔は見えないッスけど、阿含さんの声からいって、
顔がひきつってるのが目に浮かぶようッス。いや、目にうかべてる場合じゃないんスよ!
いますぐこの会話を止めないと、鬼ヤバイッス。
でも…、いま突然このテーブルの下から俺が出てったら…。
それも鬼ヤバイッス!
「隠しても無駄だ。裏はとれてる」
「裏はとれてる」
じゃないッスよ!なにイバってんスか、雲水さん!
酷いッスよ…。俺どうなるんスか…。鬼ッス、この人仏様みたいな顔して鬼ッスよ。
出られないっスよこんな状況…。
でも早く出ないと俺の罪が、チクリ+盗み聞き、のダブルでより一層心証が悪いッス。
よ、よし、行くぞ、せーの
「一休か」
ヒッ!!!
「別に誰からでもいいだろう」
び、びっくりした……!!
思わず出かけた手を、ひ、ひっこめてしまった…。
阿含さんのあのドスのきいた声聞いて、出ていける人間なんかいないッスよ!
どうせ俺は弱い人間ッス!もう2人が出ていくまでここに隠れてる事に決めたッス!
つか、いまさらごまかしても無理に決まってるじゃないスか雲水さん…。
「一休しかいねー」
正しいッス。阿含さんはまったくもって正しいッス。
雲水さん…俺恨みます。
「認めるんだな」
強気ッス。雲水さん、鬼強気ッス。俺には事後報告で済ますつもりっス。
「すまん、つい」多分こんなモンでチャラにする気ッスよ。なんて恐ろしい人なんだ…。
「一休、ブッ殺す」
き、聞きました?いまの聞きました?すっごいちっちゃい声でしたけど、アレ、本気ッスよ。
しかもやるんスよこの人、やると決めたらなんだってやり遂げるんス。
タチの悪いことにこの人、まがった性格をのぞけば全能なんスよ。
だってしょうがないじゃないスか…
雲水さん、寮の娯楽室で暇つぶしながら朝まで阿含さん待ってたんすよ。
まあ、正確には途中で寝ちゃって、起きたら朝だったんスけどね。
「でも、ま、悪かったよ」
あ、阿含さんが折れた。すごく態度でかいですけど一応謝りました。
意外だと思います?結構こんなモンなんスよ、この2人。
真面目なぶん、雲水さんの方が厄介なんスよ。
たぶん、阿含さんは途中でめんどくさくなっちゃうんすスよね。
「寝言まで言われちゃあな」
寝言?なんスかね…その情報は…。昨日娯楽室で寝てた時の事ッスかね?
俺がいたときは雲水さん、別に寝言なんか言ってなかったッスけどね。
ただ凄く嫌な予感がするんスよ。阿含さんの喜々とした声…。
「阿含、阿含〜って、そんなにアレ?俺の事好き?」
ありえないッス。ちょっと吹きだしそうになったッス。
あることないこと、まるで子供のケンカッすよ…。これじゃ収集つかないじゃないスか。
「一休か」
!?
えっ!?な、雲水さん…?
「他に誰がいんの」
ちょ、何の事ッスか、嘘ッス!知らないッス!無実ッス!!
俺そんな事言ってないし聞いてないッスよ。
なんで信じるんスか雲水さん…阿含さんも酷いッスよ!ホラ吹かないでくださいよ!
「・・・・・・」
「・・・・・・」
こ……
怖いッス、この沈黙…!
テーブルの上で、どんな顔してるんだろう2人とも…。
雲水さん、本当に自分がそんな寝言いったと思ってるだろうなあ、
しかも俺が阿含さんにチクったって思ってて…、
うっわ、想像したら悪寒がしたッス。
ああ…参ったな…、どうしよう…。
雲水さんて優しそうに見えて、実は恐ろしくプライド高いんスよ。そのうえ頑固だし。
弁解するにも2、3日間を置きたいッス…ちょうど明日明後日は土日だし、月曜あたりに弁解を…
ポク ポク ポク チーン
「!」
メールだ…。
終わった…。
「この音は…」
双子らしくピッタリハモった2人の声が聞こえる。
俺はテーブルの下から這いだすと、ドアにぶつかりながらも、
脱兎のごとく部室を逃げ出した。
あの2人から逃げ切れるはずがない、そう知りながらも。
「一休ーーーーーーーー!!!」
ああもう、
神様、仏様。
俺が何をしたんスか!?
end.
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