誕生日おめでとう雲水。
なんか欲しいもんある?
言ってくれれば、
今度会う時までに買っとくし。

もう17かあ。

ほんっとつい最近まで、お腹のなかにいたのになー。
たまには電話、しなさいよね。



5月31日の電話



今日、17の誕生日を迎えた雲水は、
寮内の廊下で、なかなか千円札を飲み込まない自動販売機と根比べをしていた。
裏返してみたり、伸ばしてみたり。
やっとの事で自販機は千円札を受け入れた。
雲水の指先はランプの点いたボタンの前ですこし迷って、炭酸飲料のボタンを選んだ。
レバーをひねり、取りだした小銭をポケットに入れて、一本のアルミ缶を取りだした。
手で缶ジュースを弄びながら、寮の階段を降りる。

おう、雲水、お前メシ食った?

ちょうど階段を登ってきたゴクウが、雲水の顔をみて言った。
ああ、いま食ってきた、雲水はそう答えた。
やべーもう50分だと言って、ゴクウは階段を駆け上がっていった。
寮の一階、玄関のすぐそばにそれはある。
雲水はそれに向かって歩きながら、缶ジュースを小脇に挟むと、
ポケットの小銭と尻ポケットの携帯電話を取りだした。
薄暗い寮の廊下に、液晶画面が妙にあかるい。
缶を台に置くと、100円玉を一枚、
忘れ去られたようなピンク色の公衆電話に飲み込ませた。
じゃりん
一体この電話にとって、どれくらいぶりの音なのだろう。
携帯の液晶を見ながら、公衆電話のボタンを慎重に押していく。
無事コール音が聞こえてくると、雲水はそばにあった小さな木の丸椅子を引き寄せて腰掛けた。
古いせいか、椅子は雲水の体重でぎしりと歪んだ。

「あ、母さん?」

古くさい受話器の向こうから、いつもの声がきこえてくる。

雲水?
なによ、公衆電話だから誰かと思った。

「部屋、電波わるくてさ」

そ?
最近どうなの?元気してる?
ゴールデンウィークだったのに、ちょっとはこっちに顔だしなさいよ。
部活ばっかやってないでさ、怪我とかしてないでしょうね?

「うん、大丈夫。今度帰るよ」

もう、こないだも今度っていってたじゃないの。

「俺は元気だよ、阿含も」

ならいいけど。
あ!お母さんね、料理教室に行きはじめたのよ。
駅前の、松田屋の隣にビルあるじゃない?あそこで。
先生ね、テレビに良く出てる人なのよ。本も一杯出してるし。
昨日はね、中華風茶わん蒸しと、おこわでしょ…
あ、あのおこわは絶対、雲水の好きな味よ。

「うん」

今度試合、いつあるの?
おこわ、作ってってあげようか。

「いいって、阿含、絶対嫌がるよ」

阿含なんか出る、出る、って言って、
どうせ、いっつも出ないじゃないのよ。

「この間は出たよ、母さん、阿含が出る時に限っていないから…
こないだは阿含が出てから大差がついて」

もう!いいのよ、阿含のことなんか!
あんたいっつも、口ひらくと阿含の事ばっかりなんだから。
あいつ、こないだあたしにババアって言ったのよババア!
まだ私、38よ?ほんとにあんたと一緒にお腹にいたのがアレ?
阿含が帰ってきたって家入れてやんないんだから。
ぜったい許さないからって、言っておきなさい!

「うっせ、ババア。帰んねーよバーカ」

「阿含!?」

なに!?阿含ね?そこに居るの?
もう、誰のお陰でそこに居られると思ってんのよー!
雲水、出しなさい!阿含を出しなさいっ!

「母さん、駄目だ。もう小銭がなくって、そろそろ切れるかも」

雲水、アンタ、わざと公衆電話からかけてるんでしょ。
携帯じゃ切れないから!

「母さん」

なによ。
雲水の親不孝者ー。

「ありがとう」

(17年前の今日)

……。
そうね。ちょうど生まれたくらいの時間だったわね。
双子のくせに、あんた達デカくって。

「お陰様です」

もう、あんたも律義ね。

「母さんの子だからね」

ほら、もう切れるんじゃなかったの?
切るわよ、じゃあね。

つー、
つー。

プシュ

「これ貰っていいんだろ」

「ああ、お前のだ」

雲水は丸椅子に腰掛けたまま、残りの小銭をポケットにしまった。
阿含はその透明な炭酸飲料をごくごくと飲むと、ふと雲水の携帯電話を見た。

「あ、やべえ俺まだ飯食ってねえや」

もう食堂は片づけを始めている頃だろうが、行けばなんとかなると思っているらしい。
阿含は缶ジュースを飲みながら、だらだらと階段を登り始めた。

「阿含」

雲水は階段をのぼる阿含に
声をかけた。

「んー?」

すでに階段の上へ姿を消した阿含から、
缶に口をつけたままであろう、返事が返ってきた。
何百人という生徒が生活する寮にもかかわらず、廊下には人影もなく、静まり返っている。
雲水はとくべつ声を張り上げるでもなく、普段の調子で言った。



「今年もよろしくな」




「毎年毎年、律義だねー」

飽きれたような、でも機嫌がいいのだろう、
階段の上からはそんな声が返ってきた。

「お前もな」

雲水はそう呟いて、両膝をぽん、と叩くと丸椅子をきしませて立ち上がった。
階段の上から、なかなか達者な口笛がきこえる。




ハッピバスデー トゥー ユー ♪



end.





メンドくせー!の山田さまに 勝 手 に 捧げさせて戴きました。
山田さまが、私に下さったメールの中で、雲水はお母さんとどう話すんだろう、
ケータイだと母が無限に話すから公衆電話でかけて「お金なくなるから切るよ」って言い訳したり、
という山田さまの世界がものすごく素敵で、メールを読みながらもわーっと世界ができてしまい、
ついでに小説もできてしまいました。

高校生の雲水が、わざわざ母に電話するのってどんな日だろう、と考えた結果、
自分の誕生日、すなわち母が自分を産んだ日かな、と。
雲水なら自分の誕生日を祝われるよりも、自分を産んだ人をねぎらうんじゃないかと思いました。
この日だけは母に電話して、ありがとうを言う。
一緒に生まれた弟には、今年もよろしくと新年の挨拶(?)をする。
この日だけは弟が顔を見せにくる。
そんな風に、ええ、妄想がとまらなくなった次第でございます。

勝手に押し付けた割には、山田さんのサイトにも飾っていただけているという快挙でございます。笑
いやあ、書いてみるもんだ。

そしてなんと!山田さんがこの「5月31日の電話」の絵を描いてくださりました!
思わぬコラボに大感動でございます…!

山田さん、ありがとうございました!