昨夜の雨に耐え抜いた満開の桜が、惜しげもなく青空に花びらを振る舞う。
砂利の水面すれすれを、這うように舞う桜吹雪とともに、
いちまいの紙切れが阿含の靴に纏わりついた。
皴だらけになったA4サイズのコピー用紙。
ほんの気まぐれで、振り払わずにつまみ上げてみた。
「かんとう さいきょう しんりゅうじ なーが で あめふとを やらないか ?」
力強い筆文字を阿含は声に出して読んでみた。
その時、阿含の背後、長い長い階段の下。
黒いアウディがすべるように停車した。
車体には、青空にうかぶ雲の細部までうつりこんでいる。
バタン
なにげなく、阿含は振り返る。
車を降りて石段を登り始めたその人物もまた、何気なく顔を上げた。
阿含はもういちどそのコピー用紙に視線をやると、
こちらへ向かって石段を登って来るその人物に、身体ごと向き直った。
人さし指と親指でコピー用紙を、石段の下へひらひらと振るようにして、
阿含は言った。
「雲水、アメフトやんね?」
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