11.小秋日和
今日はまるで昨日までの暑さが嘘みたいに涼しい。小春日和ならぬ小秋日和ってとこだ。
涼しいを通り越してちょっと肌寒い。クラスにも長袖のシャツが多かった。
ま、俺は半袖だけど。
「じゃあ僕コピーとってくるね」
お願いねセナ。まもりさんの言葉にうん、と頷くセナ。
まるで姉弟みたいな、見慣れたやりとり。よく見る風景。
でもなんか最近どこか変わった。
セナは今日用心深く長袖を着てるけど、そうじゃなくて。
「背・・・かな」
俺のつぶやきにセナを見送っていたまもりさんが、え?と反応した。
「セナ、背伸びたんじゃないかな、と思ったんスけど」
いつも一緒にいると分かりにくいけど、でもいつも一緒にいるからなんかわかる。って事があるだろう?
「そう・・かな。そんなに伸びてないと思うけど・・」
まもりさんは毎日セナの身長をチェックしてるのか?そんな訳ないけど、セナに関するまもりさんの一言は説得力がある。
「そうスか?でもセナなんか変わったって思ったんスけど、痩せた?そんな事ねぇか。
なんつーか、顔が違うっつーとオカシイッスけど・・」
まもりさんの口に運ばれようとするカップがぴたりと止った。
「顔が違う」
まもりさんの思わぬおうむ返しに、俺はしゃべるのをやめた。
「顔が変わった・・・かもしれない」
顔が変わるってのも妙な話しだけど、多分それが一番しっくりくる。
今度はまもりさんと意見が合ったようだ。
なんつうかな、笑い方とか?ボケっとしてる時の顔とか?具体的にコレだ!っていうのがわかんねぇけど。
大人っぽくなったっていうのも大げさか。
でも前までセナにあったなんかが無くなって、セナに無かったなんかが加わったっつーか?あーよくわかんねぇや。
・・・にしても、まもりさんのその深刻な表情はなんだ?
「ど、どうしたんスか?」
まもりさんは口に運びかけたカップを皿に戻し、じっと手元を見つめた。
「・・・モン太君」
「なんスか?」
「ううん・・・なんでもない」
「何スか?俺で力になれる事だったらなんでも・・・」
うつむき気味の顔のまま、目だけを上げ俺の目を色素の薄い瞳が捉えた。
もうあれから一週間か。俺は白い浴衣のまもりさんの茶色い目に映る光を、花火を見るふりをしてずっと見てた。
あの夜は暑かったなあ。
「モン太君、好きなひといる?」
なっ・・・
「なななななななんスかっイキナリ!!」
ま、まもりさんがそんな事聞くなんて、ま、まさか・・・!
「・・・・いるのね?」
上目使いで俺をじっと見つめるその目に、操られるように口が動いた。
「は・・い」
まもりさんの事が好きです。
今、言おう。そうしよう。
口を開きかけた所にまもりさんが先手をかけた。
「やっぱり好きなひとができたらさ、周りの事とか見えなくなったりする?」
「・・・ハ?」
「友達の意見とか・・相手の悪評とか」
・・・・。
言わなくて良かった・・・。
腰が椅子から浮いていた事に気付き、脱力するように腰を下ろした。
ハァ、とんだ早とちりだ。そんな上手く行くはずないもんな・・・。
「モン太君聞いてる?」
「え?ああ、そうスね。人の言うことなんか全然耳に入らないッスよ」
まもりさんの悪評なんかあるはずもないけど。あったとしても俺は変わらない自信がある。
それまで真っ直ぐで強い力を持っていたまもりさんの目が、かよわく急に細められ同時に、
「はァーーー・・・」
と大げさにため息をついた。両ひじをテーブルに突き、がっくりと首まで垂れている。
・・・俺なんか変な事言ったか?
「ま、まもりさん?」
俺は恐る恐る声をかけた。
「何?」
まもりさんは顔を上げ、力なく俺を見た。
「まもりさん。好きなひと・・・いるんスか?」
我ながら怖い質問をした。
言ってからしまったと思った。
下手すりゃ、もう玉砕だ。
まもりさんの目がびっくりするように見開かれた。
図星だ。聞かなきゃよかった・・・。
「ぷっ」
くすくすと押さえた声でまもりさんが笑った。
その顔は本当に可憐で、本当に俺はこの人が好きなんだと胸が痛んだ。
「いないよ。私には」
え?
「な、なんだ。そうなんスか?」
よ、良かった・・と言っていいだろう。俺の事が好きだなんてそんな夢みたいな話あるわけない。
ちょっと期待してたけど。でも玉砕は免れたわけだ。
俺は乾いた声で、はははと笑った。
きっとヘンな男にひっかかった友達に、相談でもされたんだろう。
こんなに心配するなんて、まもりさんは優しいな。こんな人を友人に持っただけでもラッキーだ。
それにしても嫌な汗をかいた・・・。汗をかいたのに今日半袖で来た事を後悔するくらい、寒い。
そもそもなんでこんな話になったんだ・・・。
ああ、そうかセナの顔がどうとかって話しか。
ん?
今のまさかセナの事じゃないよな?
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